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生徒を惹きつけるEFL教師になるためには

デイビッド・マーティン著

ESL/EFL という分野はまだ歴史が浅いにも関わらず、様々な指導方法が提案されては廃れてゆき、新しいものに置き換えられてきました。オーディオリンガル法、機能主義、コミュニケーションパラダイム法などを経て、現在はタスクベースの授業が主流となっています。シーン(Sheen, 1994:127)はタスクベースの授業(task-based syllabus)についての評論の中で、次のように述べています。「第二言語および外国語教育における頻繁なパラダイムのシフトは、語学学習法の発展に良い影響を及ぼしているとは言い難い。」どの学習方法もその他の学習方法に対する優位性が証明されていないため、多くの教師は常に新たな「流行」を追いかけることに終始してきました。結局のところ、言語自体がそもそも多様性をはらむ曖昧なものであるが故に、常識的な判断として、一番流行っている方法がベストに違いない、と考えてしまいがちなのです。

方法論はさておき、EFL教師として成功するためには、どうすればよいのでしょう?私自身が日本でEFL教師を勤める中で学んだ「すべきこと、してはならないこと」を下記にまとめてみました。これらの事柄は、私が大学院に学んだ時に教わることはありませんでしたし、必ずしも革新的とは言えないかもしれませんが、英語を教える上で本来知っておくべき有益な助言であると考えています。

1.生徒の名前を覚える

これは幾ら強調してもし過ぎることのない、重要なことです。早い段階で生徒の名前を覚えてしまえば授業をスムーズに行う上で大変役立ちますし、生徒の信頼を勝ち取ることもできるようになります。記憶力にあまり自身のない方は、最初の授業で生徒に名札をもたせて、全員の写真を撮っておくと良いかもしれません。二度目の授業では生徒を驚かせ、感心させる事ができるでしょう。

2.最初から権威を確立する

生徒に最初から100%英語で会話することを求め、95%ぐらい達成した場合のみ良しとします。パートナーと日本語で話しているのを見つけたら、決して見逃してはいけません。そういう場合にはすぐに優しく、しかし確固たる態度で諭しましょう。

3.十二分に準備をしておく

紙に書いた明確なレッスンプランがないとしても、頭の中には入れておきましょう。大まかに各アクティビティの所要時間を確認しておき、時間が余った場合の追加アクティビティを準備しておきましょう。

4.常に生徒のニーズを考慮してレッスンを準備する

どのような目的で生徒は英語を勉強するのか?彼らは修得した英語を将来どのように使うのか?そのためには、彼らは何を学ぶべきなのか?例えば、多くの生徒がアメリカの大学に留学する場合、教師は彼らが現地の大学で講義を聞き取り、テキストを読んで理解できるように、あるていど準備をしてあげることが必要です。逆に、もし殆どの生徒が英語学習に対してこれといったニーズを持っていないならば、将来役立つであろうスキルを教えることに焦点を当てるべきです。例えば、映画の台詞や歌の歌詞を理解したり、手紙やメールを書くためのスキルなどを教えるべきでしょう。

5.レッスンプランの変更や中止に、常に備えておく

もし自分の用意したレッスンプランが上手くいかない場合は、変更したり中止することを恐れてはなりません。常に生徒の気持ちに敏感であることが大切です。上手くいかな いと分かっていることを強制しても、良い結果は生みません。

6.生徒が既に知っているであろう事を前もって調べておく

これは常にチェックする必要があります。生徒達は既に特定の文法や語彙を習っている可能性があるからです。また日本語が英語から多くの言葉を取り入れている点には、特に注意をしなければなりません。例えば「キッズ(kids)」、「ニュアンス(nuance)」、「エレガント(elegant)」などは日本語として定着していることを認識しておかねばなりません。

7.文法の知識を蓄えておく

これは発音、構文、社会言語学の分野も含みます。とはいえ、EFLを教える上で言語学者になる必要はありません。知っておかねばならない殆どの文法は、EFLPress の生徒用テキストから学ぶことができます。文章構造のルールと説明に関しては、ほとんどの場合TESLのシンタックスコースで使用されているテキストよりも、EFLPress の生徒用テキストの方が理解しやすく、実用的です。

8.生徒の国の文化についての知識を蓄えておく

単一言語環境の教室においては、生徒の国の文化について知っておくことが教える上で大いに役に立ちます。

9.現在使用しているテキストに生徒が修得したい、もしくは必要としている内容が含まれているとは思わない事

殆どのテキストは、どれも同じようなスキルや文法、単語を扱い、似たようなパターンのくり返しです。これは何か科学的な根拠があるわけではなく、ただ単に出版社が新しいテキストを出版するリスクを負いたくないという理由から来ているのです。全ての教師の支持を得ようとするが故に、個性のない面白みにかけた妥協の産物を作ってしまう傾向があるのです。そのため、生徒が本当に必要としている単語、スキル、文法、トピックを追加することは、すべて教師の仕事になってしまうのです。

10.現在使用しているテキストが効果的であるとは限らない

テキストに記載されているアクティビティを実際の授業で用いても、全く上手くいかないことがあります。それどころか、本当に実際の授業で試用されたことがあるのかどうかさえ疑わしいことがあります。殆どのアクティビティは、実際の現場において効果的に実施するためには内容に変更を加えたり、あるいは完全に破棄したりしなければならないのです。

11.授業で使用するテキストは慎重に選ぶ

殆どの教師や生徒は、現在流通しているテキストに不満を抱いています。生徒のニーズに合い、英語でのコミュニケーション能力を向上させる上で真に役立つテキストを選択することは大変重要です。

12.有用な語彙を教えることをおろそかにしない

言語の基盤となるのは決して文法やスキルではありません。生徒が修得しなければならない最も重要なものは、語彙です。語彙なくしては文章は作れませんし、発音練習もできないのです。生徒が語彙を増やそうとやる気になるように指導しましょう。

13.まず事前に計画したアクティビティから始め、自由なアクティビティは後で実施する

常に当てはまるわけではありませんが、原則的には、自由な(生徒の自主性に任せた)アクティビティの前に、まずは計画に基づいたアクティビティを行うのが良いでしょう。

14.リスニングを教える事をおろそかにしない

リスニングが生徒に教えるべき大変重要なスキルであることは、多くのESL専門家達が認めています。生徒同士での会話や、あるいは先生の話を聞くだけでもリスニング力を高める事はできますが、やはり本物の(テキスト英語ではない自然な)英語を聴くことが一番です。いろいろなシチュエーションで、できるだけたくさん、生徒が本物の英語に触れられるようにしてあげましょう。一番現実的で効果的な方法は、ビデオを上手く活用することです。確かにCDを授業中に聴くことでもリスニング力を高めることはできますが、ビデオの方がより刺激的で異文化紹介的な要素を多く含み、効果的だと言えるでしょう。

15.通常のアクティビティをゲーム化、コンテスト化する

英語教育でおなじみの授業内容の多くは、ゲームや競争的な要素を含むアクティビティに作り変えることが可能です。これは生徒にやる気を与えクラスを盛り上げるためには、とても良い方法です。

16.バラエティに富んだ内容の授業で生徒をやる気にさせる

バラエティに富んだ面白いトピックやアクティビティによって生徒はやる気になり、授業に対する興味を示し、多く練習をするようになるものです。タスクに真剣に取り組む時間が長ければ長いほど、早く上達すると言えるでしょう。

17.言語学を教えない

言語と文化は分けて考える事ができません。文化に関することを授業に取り入れていなければ、真に言語を教えているとは言えません。

18.音声学を教えない

発音を教えることは大切ですが、実際のコミュニケーションには役に立たない最小対の練習などはあまり意味がありません。生徒たちは「最少対」が何かすら理解していないのではないでしょうか。発音は文脈中で教えるのが良いでしょう。例えば健康について教えているのであれば、熱(fever)、頭痛(headache)、腰痛(backache)、耳痛(earache)、便秘(constipation)等、病気にまつわる単語を使って、どの音節にアクセントを置くのか教えるというように。

19.生徒を解らないままに放っておかない

各レッスンにおいて、生徒が何を修得しなければならないかを必ず説明すること。生徒に何のために、何をしているのかを、きちんと把握させることが肝心です。授業は生徒にとって、明瞭で解りやすく構成されていなければなりません。

20.お金のためだけでなく、熱意をもって教えよう!

役者や芸人になれとまでは言いませんが、生徒は教える事に喜びを見出している先生を支持するものです。教えることに疲れていても、それを顔に出してはいけません。それができなければ、転職する事をお勧めします。

21.一人の人間として、生徒に興味を示す

生徒をただ単に教える対象としてではなく、一個人として向き合いましょう。ひいきしたり、見下したりしてはいけません。学校の外で人に接する時と同じように、普通に接しましょう。真のコミュニケーションとは、こういったところから生まれるのです。

22.生徒達と直接コミュニケーションする機会を設ける

生徒は何よりも教師と会話することを望んでいます。その機会が無くなってしまうほど、ペアワークやグループワークをやらせ過ぎないことが大切です。

23.自由にコミュニケーションをする時間を設ける

スピーキングにおいては自由に話すための時間、ライティングではフリーライティングのための時間、リーディングでは読む喜びを味わうための時間、リスニングにおいては楽しんで聴くための時間を設けるようにしましょう。

24.授業を盛り上げるために、ユーモアを交える

少なくとも各レッスンに一度は、クラスが笑いに包まれるようにすることを習慣にしましょう。

25.生徒の母国語に興味を持っていることを示す

これは生徒が日本人のみの授業においては特に大事な点です。彼らの母国語(日本語)を無視すれば、生徒は不満を抱き、教師が生徒に対して敬意を払っていないとさえ思うようになります。可能ならば、定期的に日本語を授業の中で使ってみるのも良い方法です。そうすることで生徒に敬意を示すのと同時に、彼らをリラックスさせるのにも役立つでしょう。

26.ひいきはしない

ある生徒が他の生徒に比べて面白かったり、積極的だったりすると、ついえこひいきをしてしまうものです。できる限り公平に生徒達に接するようにしましょう。

27.授業中は動きまわる

教室の中を歩き回りましょう。時には各グループに加わって、会話に参加したりすると良いでしょう。歩き回りつつ会話に耳を傾け、生徒の様子を観察することをお勧めします。

28.指示は簡潔かつ明瞭に

説明するだけでなく、できる限り教師みずから実演してみせることを心がけましょう。

29.生徒の鼓膜を破らない程度に大きな声で話す

あなたの声が生徒に届かなければ意味がありません。かといって声が大き過ぎるのも迷惑千万で、大声を張り上げたからといって理解を得られるというものでもありません。大き過ぎる声は、むしろ逆効果であるという研究結果もあります。

30.教師は喋りすぎないように

テーマによっても違ってきますが、教師の話は授業全体の5〜30%に留めておくべきです。スピーキングやライティングでは、10〜15%以上になってしまうと話し過ぎです。基本的に授業は教師中心ではなく、生徒中心でなければなりません。

31.喋るスピードは遅過ぎることのないように

教師が不自然なくらいにゆっくりと話していて、生徒が本物の(テキスト英語でない自然なスピードの)英語を理解できるようになるでしょうか?簡単な単語を使って、生徒が理解しやすい言い回しばかりしていては、長い目で見ると生徒のためにはなりません。極力通常の速さで喋り、必要に応じて反復してあげるのが良いでしょう。

32.生徒の気持ちに敏感になる

生徒のささいな表情や反応を見逃さないことです。彼らは本当にあなたの言うことを理解しているか?退屈してはいないか?常にクラスの雰囲気を掴み取ることが大事です。授業を始める際に話をしている生徒がいたら、優しく声をかけて、私語を止めさせましょう。 教師がどこか特定のグループに入っている場合も、やるべきことが分からずに困っているグループがあるかもしれないので、絶えず周りの状況に気を配るようにしましょう。

33.精神分析医にならない

英語を学んでいるからといって、内向的な生徒が一夜にして積極的な人間に豹変するわけではありません。このような生徒には、小さなグループで話をする機会を与えましょう。クラス全員の前で大声で答えを発表することを求めてはいけません。

34.飲み込みが「早い」「遅い」に関わらず、全ての生徒を平等に扱う

言語習得のスピードで賢さが決まるわけではありません。最も重要なことは、生徒が着実に上達しているかどうかです。

35.キレない

一度キレてしまえば、長い時間をかけて築いた信頼関係が一瞬にして喪われてしまいます。もし我慢しきれずその場を立去る以外に方法がなければ、問題点を冷静に説明した上で、教室を出ましょう。

36.正直に評価をする

生徒が上達している時にはおおいに誉め、あまり成果が見られない場合は励ましてあげましょう。

37.コーチになった気持ちで

時には、教師というよりもコーチになったつもりで生徒に接すると良いかもしれません。 そして生徒に少しでも多くの文章を書かせたり、キビキビとグループに分かれるように促したり、会話がもっと広がるようにと導きましょう。

38.テストは公平かつ現実的に行う

まずは問題にする内容を教えてからテストしましょう。決して教えていない内容をテストに出してはいけません。また、言語の主な目的はコミュニケーションだという事を忘れないようにしてください。リスニングテストのディクテーションを採点する場合、例えば“What your name?”(“is”が抜けている)と言う解答であれば、生徒は会話の意図を100%理解したことになるので、ほぼ満点を与えるべきです。

39.直し過ぎないように

例えば、中級下レベルの叙述文(narrative composition)を採点する場合、関係詞節(relative clauses)の間違いを正すことにはあまり意味がありません。同様に、単純な過去形を教えている時には、冠詞を直すことには意味がないのです。もし生徒が自身で間違いを直せると思ったら、すぐに答えを教えてしまうのではなく、自分で間違いに気づく機会を与えることが大切です。

40.自分の授業を振り返る

各レッスンの終了後に、その日の授業を振り返る時間を作るようにしましょう。今日の授業は効果的だったか?どこが良かった・悪かったのか?少しでも改善できる点はないか、考えてみましょう。

41.良い調子をキープすること

教えることに飽きてはいけません。積極的に新しいテキストや指導要領をチェックしたりして、新しいアイデアにどんどん触れていきましょう。同僚とアイデアを交換したり、英語教育に関する様々なカンフェレンスに参加したりするのも良いでしょう。

42.時には自分自身を笑い飛ばしましょう

何をやっても上手くいかない時もあります。自分の失敗を、自分に対してもそして生徒に対しても素直に認められる謙虚さがなくてはいけません。

参考資料

Sheen, Ron. (1994). "A Critical Analysis of the Advocacy of the Task-Based Syllabus," TESOL Quarterly 28 (1): 127.

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